2008年08月13日

お奨めミステリー小説 (223) 『鏡の中は日曜日』 殊能将之

この作品は柳広司の『はじまりの島』を押さえて「ネット系読者が選んだ本格ミステリー 2003」の第一位に輝いた。「完璧な本格」とも称される。

いわゆる「館ミステリー」であるが、連続殺人が起こるわけではなく、殺されるのはわずか一人。
「新本格」のような無駄に人が死んで謎ばかりが深まるといった雰囲気は希薄だ。
しかしその見せ方がおもしろい。

著者の前作『美濃牛』同様に『八墓村』などの横溝作品を連想させる土俗的な雰囲気がある。
一方、フランスっぽい響きのしゃれたタイトルは認知症の参考書『鏡の中の老人』から採ったと思われる。

さらにマラルメの詩の引用など無駄知識が披露されるわりにストーリーの本質に関わらない。
しかし嫌味にペダンティックな雰囲気はないのは作者の力量か。

過去の殺害現場を14年後に現代の探偵が旅していく。
そして過去も小説の形式になっており別の名探偵が登場する。
整理されているから良いようなものの、読んでいる方は混乱しかねない設定だ。

また、『ハサミ男』同様叙述トリックがあり、アルツハイマー症の描写など少しずるい気もするが、この病気の性質を考えると頷けるところもある。

とにかく相当に考えられた知的小説なのは確かだ。
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[あらすじ]

自称名探偵、石動の元に出版社に勤める殿田という男が訪ねてくる。
14年前に「梵貝荘」という屋敷で起きた殺人事件について調べ直してみないかというのだ。

その事件は、たまたまその場に居合わせた探偵、水城優臣によって解決され、犯人は既に服役を終えていた。

殿田によると、水城の推理は間違いで、他に犯人がいるのではないかという。
これを指摘し新たな出版計画で一儲けしようというつもりらしい。

石動にとって、名探偵水城は小説に登場する憧れの人物だった。
ところが水城は実在して数々の難事件を解決していたという。
その間違いを指摘するのは石動にとって複雑な気持ちだが、好奇心もあって引き受ける。

やがて水城シリーズを書いた作家、鮎井が訪ねてきて再調査を止めるように忠告する。

一方、14年前の殺人事件に居あわせたある人物が今はアルツハイマー症にかかって、妻の介護を受ける身になっていた。そんな彼の元を石動という探偵が訪ねてくる。石動は過去の事件を掘り返そうとしている様子で感じがよくない。しかも妻に嫌な思いをさせている石動の様子を見た彼は発作的に花瓶で石動を殴り殺してしまう。

「探偵を失ったミステリー」はどこへ行くのか?



鏡の中は日曜日 (講談社文庫)
講談社
殊能 将之


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posted by j-sakanoue at 00:32| Comment(0) | TrackBack(0) | FY2004-FY2021 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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