なにせ、「恥を知らない人間は人間以下」、「あんたみたいにチョロけたやつは無敵よね」などと人前で言うような女が登場するのだ。団地暮らしのどちらかというと労働者階級の一般人がそれなりに相手を分析し、こういう台詞を吐くところが、小池真理子とはひと味違う。あちらは明らかに知的な階層が中心だ。
郊外の住宅地に住み、週末にはジャスコで暇をつぶすしかないような町は今時珍しくない。
その点、京橋家のような家族は現実にありそうだが、やはりこんなのはありえないとも思う。
思うに、作者は人間の思索能力を買いかぶりすぎているのではないか?
実のところ、作者の角田光代は男をどう見ているのか?以前、「男は下品でなければ他はどうでも良い」というようなことをエッセイで読んだ覚えがある。問題は“下品”の内容だが、「暴力をふるわず、金を踏み倒さなければ OK・・・」といったことを書いていたような。だとしたら、角田はずいぶんと許容範囲の広い女性だ(苦労人?)。
さて典型的な“仮面家族”(不気味!)を描いた連作短編集である本作だが、一人称の書き手が替わるたびに思わず感情移入して読んでしまう。中でも表題になっている『空中庭園』は秀逸。老いてもなお下品な母親を憎みながらも離れられない娘の話だ。ここでも、「秘密を吐き出して楽になろうとする男」という名言が登場する。
そしてラストは数ある短編小説の中でも相当上位にランクされるだろう。
タイトルも象徴的で良い。
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[あらすじ]
郊外の団地で暮らす京橋一家は難しい年頃の息子と娘を抱えた4人家族だ。
しかし京橋家では決して秘密を持たないというモットーのもと、「なんでも話し合うこと」を続けてきた。
妻で二児の母親、絵里子は中学生の息子コウのもとに来た家庭教師ミナ先生が気になって仕方がない。
教師らしからぬ容貌の上、妙に色っぽいのだ。
まさか息子に手を出すことはないだろうと思いつつも、もちろん口には出せない。
一方で、絵里子は一人暮らしの母親に手を焼いている。
何かと自分にすがり甘える母親が昔から絵里子は大嫌いだった。
そして今また無神経に自分の生活に入り込んでくることに疲れてくる。
ラベル:ミステリー小説