本作は『殺人劇場』、『サイレント・パートナー』と並ぶケラーマンの三大傑作ではないだろうか。『殺人劇場』はイスラエルを舞台にした重厚な本格テイストと犯人当て。『サイレント・パートナー』はアレックスが活躍するトリッキーな作品。『マーダー・プラン』でのアレックスの精神分析はさらに冴えてくる。UCLAで小児精神医学の博士号をとった作者の能力が遺憾なく発揮されている。日本語訳も実に流暢だ。
猟奇殺人を巡って怪しげな人間が次々と現れるが、途中から登場するFBI捜査官フスコの姿が異様だ。姿を見せない犯人を追うのに取り憑かれた男ははたして信用に値するのか?アレックスとともに読者も混乱させられる。
また毎度のことながらアレックスの相棒でゲイの刑事マイロが登場するが、今回は少し影が薄い。アレックスと対立関係にあるようにも見える。孤立させられたアレックスは緊張を強いられる。
驚いたことに本作に登場する“ドクター・デス”のモデルは実在する。“マーシトロン(慈悲殺装置)”によって 120名を安楽死させたというジャック・キヴォーキアン医師だ。この“アメリカのドクター・キリコ”はアメリカの法律で裁くことはできず、今でもその正当性を巡って争いが続いているという。作者ケラーマンも安楽死そのものについては慎重に言明を避けている。
とにかく事件の性質から犯人の人間像を絞り込む前半と意外な犯人像を描いたフィナーレを満たした本作は“現代の本格”の名にふさわしいだろう。
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[あらすじ]
ロスアンジェルス郊外をジョギングするカップルが停車した車の中で凄惨な死体を発見する。被害者は医師のエルドン・メイトだった。メイトは自ら考案した“安楽死マシーン”を使って40数名の末期患者をあの世に送った“ドクター・デス”として知られていた。しかしメイト自身は裁判で一度も有罪にならず、むしろマスコミの取材を楽しんでいる様子だ。その一方で「苦しんでいる家族を楽にしてくれた」という、メイトの熱狂的な支持者がいるのも確かだった。
結局、手を下したメイト自らが死後マシーンの上で切り刻まれ車の中に放置されたのだ。
メイト殺しの疑いはメイトに家族を安楽死させられた遺族にかかる。その中に不動産業を営むリチャード・ドスがいた。理想的なカップルだったドス夫妻だが、原因不明の難病で発病後は醜く太っていく妻に悩んでいた。やがて妻はこっそりと病院を出て、メイトによって安楽死させられた。看病をしていた息子のエリックはショックで人間関係がうまくいかなくなり家族は崩壊状態だ。
さらにメイトにはかつて捨てた妻と息子がいることが分かった。父親に恨みを持つ息子の足取りは謎だったが、数々の犯罪に手を染め結局ヤク中で逮捕される。
友人の刑事マイロから犯人の心理分析を頼まれたアレックスの前にFBI捜査官フスコが現れる。フスコは長年に渡ってある人物を追っているという。マイクル・バークというその医師の周りでは不審な死者や行方不明者が頻発しているという。フスコによると、それらの犯人であるバークの手口は今回のメイト殺害に手段が似ているという。
混乱するアレックスにFBIからの訪問者が告げる。
「フスコは犯人捜しに取り憑かれFBIにいられなくなった。バークという存在は彼の妄想に過ぎない」
アレックスはいったい誰を信じればいいのか?
ラベル:ミステリー小説





