「ああ無情」な主人公ジャン・バルジャンの人生に観客はいたく感じ入るという。
特に(映画も含め)ミュージカル体験の少ない客が多いそうで、 釈由美子もその一人だ。
「舞台を超えた映画」としてこれもヒットした『オペラ座の怪人』には私もはまり、ディレクターズカット含め数回観た。
今回、張り切って『レ・ミゼ』を観に行ったのだが、意外にもさほど感動しなかったのである。
もちろん、映画ならではの表現を用いた良い部分もある。
圧巻の冒頭群衆シーンから、仮釈放されたジャン・バルジャンの放浪と改心、新しい現在の姿まで一気に進む。
ただ、あまりにあっという間に進むので、痩せこけた囚人と栄養状態の良い市長が同一人物と思えず面食らう。
数分のシーンのために数か月かけて役作りしたため、見た目が本当に違っているのだ。
ここらへんは映像がうまく繋がりすぎかえって胡散臭く見えるのが少し残念。
わずか10年足らずでお尋ね者から町の名士になったジャン・バルジャン。
ヨーロッパ人は職を得るために移動する際は出生証明書を携帯したから、彼も文書偽造など数々の罪を犯したろう。
10代から19年を獄中で過ごした彼は、とにかく50歳前後で見かけ上は「勝ち組」になったのである。
そこに現れるのが、彼の過去を知る警官ジャベールで、その存在がバルジャンを脅かす。
原作者ユゴーはジャベールへの思いが強く、かなり丹念に彼の内面を描いていた。
子供のころ原作を読んでジャベールが怖くて堪らなかったが、冷静に考えれば彼は悪いことはしていない。
それどころか、バルジャン以上の地獄から這い上がり、道を踏み外さず、国の秩序を守るため忠誠を誓ったのである。
ジャベールはひたすら国家権力に忠実で、それが国に安定をもたらすと信じている。
ごまかして偽りの賞賛を得たバルジャンと後ろ暗いところのない冷血漢ジャベールの対比。
これが、この小説の根幹をなしていると気づいたのは、初めて読んでから大分経過してからである。
ジャベールを演じるラッセル・クロウは立派な俳優だが、今回は演技力を十分発揮できず気の毒な感じ。
昔から、叩き上げでタフなジャベールが死ぬ理由が理解できなかったが、今回もこの疑問は解決されなかった。
本来、ラッセル・クロウは、ジャベールの苦悩を表情や立ち居振る舞いを通して演じきらなければいけない立場。
ところが、本作は猛烈にセリフの多い「歌いまくりミュージカル」である。
しかも、観客のための説明的セリフが多いのだ。
「今、俺は猛烈に混乱している…(中略)…もうバルジャンのいる世界はまっぴらだあー」 とブチ切れて川に飛び込む。
結果、ジャベールは 「闇の住人」であるバルジャンに救われたことで精神が錯乱し自殺したようにも見える。
主人公の最高の敵役としてこれは残念なこと。
つまり、セリフ-歌の過剰さが演技力を奪いこの映画を壊している可能性がある。
(バルジャンの改心シーンもその一つ)
バルジャンに罪の意識を植え付けるという意味で重要な役フォンテーヌにも同様なことがいえる。
アン・ハサウェイの不幸オーラ全開の熱演でフォンテーヌの境遇はよく理解できる。
しかし、涙でぐだぐだになったまま 「夢やぶれて (I Dreamed a Dream)」を歌われても楽しくもなんともない。
このミュージカル最大の名曲でこの呂律のまわらない歌い方はないだろう。
はっきり言って何の曲かも分からない。
この映画のウリ 「歌も演技も一発で収録」などというリアリズムの追求などに興味はない。
そもそも、オペラやミュージカルは、悲・喜劇の途中で登場人物が思いっきり歌い上げる「滑稽な芸術」なのだ。
悲しかろうがなんだろうが(それだからこそ)、歌のシーンはきちんと歌っていただきたい。
それができないなら、アフレコで何とかしてほしい。
Susan Boyle の熱唱 が懐かしい。
東宝ミュージカル でも、この歌のシーンはきっちり歌っている。
これら以外にも不満だらけだ。
イケメン揃いの革命家君たちは、演技力なくどこか軽い感じ。
CGで作った6月暴動の俯瞰映像(圧倒的不利な戦い)が、彼らの浮世離れさを物語る。
不幸顔のエポニーヌはパッとしない感じで、ただの可哀そうな娘。
コゼットとマリウス(チャラ男?)は自己チューのバカップルに見える。
仲間が皆殺しにあっても自分たちだけ幸福ならいいのか?
(バルジャンの旧悪を知りいったんは彼を軽蔑するという原作のプロセスを踏んでいないため、余計そう感じる)
とはいえ、映画ならではの演出が成功しているシーンもある。
聖堂でジャン・バルジャンが大往生する際は、フォンテーヌに導かれてこの世の身体から離れていく。
アン・ハサウェイの不幸でない顔を見てほっとさせられる。
あと、舞台のカーテンコールのようなラストシーン。。。いいとこは、それぐらいかなあ。
作曲者には悪いが、『レ・ミゼラブル』は、音楽的にはそれほど聴きどころの少ないミュージカルだ。
俳優の演技力を利用し、「歌いまくり演出」 は避けて、ここぞというところで美しい歌を聴かせて欲しかった。
映画 『オペラ座の怪人』 はその点を心得ていた。
思えば、監督が作曲者ロイド=ウェッバー自身だったことが大きい。
ラベル:映画・ドラマ

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